深読みをしない

感性的な悩みをしない

稲森和夫といえば京セラの創業者であり、第二電電を立ち上げ、日本航空を立て直した知らぬ者のない名経営者である。京セラフィロソフィとも言われるその経営哲学もさることながら、稲森の人間性を慕い私淑するビジネスマンは数多い。

稲盛経営では原理原則を「経営十二ヶ条」、行動指針を「六つの精進」にまとめている。その「六つの精進」の最後に掲げられているのが「感性的な悩みをしない」という条文である。くだけた意訳をすれば、過ぎてしまった失敗をくよくよ悩んでみたところでしようがないじゃないか、反省すべきところは反省して次にどうしたらいいか考えて行動した方が生産的だろってことで、実にごもっともである。反論のしようがない。さすが稲森哲学。いや、マジで。

ついつい思い悩んでしまうのは、過ぎてしまったことだけに限らない。あとから都合の悪い真実ってやつが明らかになることもある。降ってわいたような問題を、お客さんにどう説明しようか悩むことも多い。自分に責任があるならまだしも、機械の初期不良などは我々が努力したところで防げはしない。心情的には申し訳ないと思うものの、メーカーの問題なのでお詫びする以外対処しようがない。コロナ禍での例でいえば、LTE回線のデータサイズ上限の変更がそんな状況だった。

みんなコロナが悪いんや

広い十勝平野ではいまだ光回線が届いていない地域も多く、そういうところでは低速なADSL回線でなんとかネットにつなげているのが現実である。収容局から遠いので信号が減衰しまくりだが、ISDNよりはまだマシといった程度で、スマホの方がずっと高速だ。大手キャリアのLTEデータ通信はながらく7GB上限だったため、とても業務用としては使えずにいたところ、ぽつぽつと100GBまで使えるSIMを提供するMVNO(格安SIM業者)が現れてきた。ほどなく上限が500GBになり、さらにほぼ無制限を謳うサービスが出てきたあたりで、そのサービスをお客様に薦めるようになった。実際にうちのお客様でも上限なしのプランを数件ご利用いただいていたのだが、そこへ新型コロナが現れ状況は一変した。

新型コロナウイルスの流行によりリモートワークが当たり前に行われるようになり、ビデオ会議の頻度も格段に増えた。外出も控えるようになったからインターネットを利用する時間も増加し、それに比例して通信量も増えた。そしてその日はやってきた。上流キャリアが上限なしのデータ通信サービスの提供を停止したのだ。

コロナ禍でトラフィック(データ通信量)が増えたからというのが表向きの理由ではあったが、一説によれば大容量通信の仕組みを利用して「限界突破」だの「どんなときも」だのといって無制限を謳ったサービスが社会問題になったことや、5Gへの設備投資のため4G/LTEへの追加投資はできないことなどもサービス停止の要因だとも言われている。いずれにしろ、我々は大容量通信を紹介したお客様に対し、サービスが停止になりますという連絡とお詫びをせざるをえなくなった。我々のせいではない。かといってMVNO業者のせいでもない。キャリアのせいでもない。誰のせいでもない。しいて言えばコロナのせいだ。

「きっと怒られるだろうなあ」

サービス停止は誰のせいでもないかもしれないが、誰も困らないというわけではない。当社としてはMVNO業者からマージンを貰っているわけではないのでまったく困らない。取次しかしてないので、サービス停止で直接的な損失はないからだ。だが、エンドユーザのお客様が一番困る。すでに大容量通信を前提に敷地内Wi-Fiシステムを構築しているからで、特に酪農業でのインフラは牛の命や健康に関わるので大問題となる。「上限が100GBなんてことになったらきっと怒るだろうなあ。気が重いなあ...」そんな風に考えて、連絡を入れるのがすごく苦痛だった。なにかそれに代わるサービスがないか調べたりもしたが、問題の解決を遅らせただけで時間の無駄でしかなかった。

だが、怒られようが怒られまいが、結論は決まっている。サービスは停まるのだ。くよくよ考えていたってしょうがない。自分たちがなすべきことは、お客様に正直に事情をお伝えすることと不足分のデータ容量を補う方法を提案することだけだ。悩んでいても対応が遅れ、余計にお客様に迷惑をかけてしまうことになる。感性的な悩みをしてはいけない、そう思ってお客様に連絡を入れた。結果的にお客様としても理不尽は感じたことだろうが、非常時・緊急時ということもあり、うちの会社が責められることはなかった。とはいうものの、困った事態は解決していないので万々歳にはほど遠い状況が続いている。

不安の種はいつだってある

どんなに綿密に計画を練ったところで、トラブルの可能性はなくならない。トラブルの可能性がゼロではないなら、不安の種は必ずある。うまくいくだろうか、失敗はしないだろうか。突発的なエラーがおきたりはしないだろうか。こんなことを言ったら気分を害したりしないだろうか。あの時のあの人がああ言ったのは、実は気分を害していたんじゃないだろうか...などなど、考えてもしょうがないことを深読みして時間を浪費してしまいがちだ。

だが、なすべきことは意外とシンプルだ。実は選択肢はそんなに多くない。結局、深読みしたところで結論はかわらないのだ。ただ不安の芽を早めに摘んでおくことはできる。その方法が「先読み」である。深読みはするな。先読みをしろ。簡単なことだ。空を見て、雨が降りそうだったら、傘を用意すればいいって話は先週分のブログを参照のこと。

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